今回は「女か虎か?」という短編小説をご紹介します。作者はF・R・ストックトンという人です。こんなお話です。
ある王国で、身分の低い男と、王女様が、ひそかに恋に落ちます。二人は深く愛し合いました。
しかし、このことが、王様にバレてしまいます。王様は激怒し、二人の仲を引き裂きます。それだけでなく、王様は、この身分の低い男を処刑することにします。ただ、王様は男にチャンスも与えてやりました。それは、王様の慈悲というよりは、残酷趣味なのですが……。
男は競技場の中に引き出されました。目の前には二つの扉があります。一方の扉の背後には、虎がいます。もう一方の扉の背後には、国中でいちばん美しい女性がいます。
もし男が虎の扉を開ければ、たちまち男は虎にかみ殺されてしまいます。
でも、もし男が美女のほうの扉を開ければ、男は命を助けられる代わりに、その美女と結婚しなければなりません。
もちろん、男には、どちらの扉が虎なのか美女なのかわかりません。王女にはそれがわかっています。
王女は、男が虎に殺されてしまうかと思うと、とてもたえられず、気を失ってしまいそうでした。でも、一方で、男が別の女と、しかも自分よりも美しい女と結婚するかと思うと、これもまた耐えられず、嫉妬で気が狂いそうでした。
男はどちらの扉を開けるべきか迷って、王女のほうを見ました。
王女は、こっそりと一方の扉を示すしぐさをしました。王女が教えたのは、果たしてどちらの扉だったのでしょうか?
「開かれた扉からは、どちらがあらわれたであろうか? 女か、それとも虎か?」

これが小説の最後の一文です。
答えは作者によって示されず、読者にゆだねられているのです。こういう形式を「リドル・ストーリー」と言います。「女か虎か?」はその代表作です。

もし、あなたが王女だったら、どちらを教えますか?

A「美女の扉のほうを教えるに決まってる! 愛する人を虎の餌食にするなんて、できるはずがない!」

B「本音で言うと、虎のほうかも。愛する男が、別の女のものになるなんて、とても我慢ができない!」

C「本当にどちらかしか選択肢はないのかな? 王様を説得するとか、どちらでもない方法をなんとかして見つけたい!」

心が決まったら解説を読んでください。



このテストから学ぶテーマ
「食べる愛・食べられる愛・食べない愛」

今回は恋愛がテーマです! この「女か虎か?」のお話を、私の携帯公式サイト「本物の心理テスト」のブログでも紹介したことがあります。
そうすると、「Cha-no-ma」という、読者の声のコーナーに、たくさんの反響が寄せられました。そして、やっぱり意見は別れました。
「美女に決まっている」という人もいれば、「いやいや、虎にしてしまう」という人も。
それらの意見を大きく分けると、今回の女性A、B、Cの意見になります。
このお話は実は、恋愛の3つタイプを診断するのに、とても適しているのです。
それは心理学者、リーの「恋愛色彩理論」に出てくる3つのタイプです。
(リーの理論には他にも3つのタイプがありますが、それはまた別のときにご紹介します)
その3つとは、
【マニア】(狂気的な愛)
【アガペ】(愛他的な愛)
【プラグマ】(現実的な愛)
です。
これらは、色で言えば「赤」「緑」「青」の三原色のように、図形でいえば三角形のそれぞれの頂点のように、異なったタイプです。
「食べてしまいたいほど愛している」という言い方がありますが、【マニア】(狂気的な愛)は、まさに相手を《食べる愛》です。自分のものにして、誰にも渡したくない。激しくて、攻撃的で、常識や倫理の通用しない愛です。
【アガペ】(愛他的な愛)は逆に、相手のために自分を差し出す、《食べられる愛》です。相手の幸福のためなら、自分が犠牲になることをいといません。自分の満足よりも、大切なのは相手の満足なのです。
【プラグマ】(現実的な愛)は、そういう愛の激しさを嫌います。本能的になるのをよしとせず、理性的でありたいと思うのです。《食べない愛》です。
相手を滅ぼしたり、相手に身を捧げたりするのではなく、もっと理性的に、もっと普通に恋愛をしたいのです。

これはどれがいい愛で、どれが悪い愛ということはありません。ただ、人によってタイプがあるということです。でも、自分とタイプが異なる人の愛は、つい理解ができなくて、非難してしまいがちです。
今回のお話でも、美女を選ぶ人は、虎を選ぶ人を冷酷だと感じたりします。虎を選ぶ人のほうも、美女を選ぶ人を偽善的と感じたりします。
さらには、「それは本物の愛ではない」と、相手の愛の真実性を否定さえしかねません。

しかし、そうではないのです。それぞれの愛のカタチがあるのです。そして、カタチがちがうから、いろいろな問題が生じるのです。
「愛しているなら、こう考えるはず、こうするはず」といった思い込みは、あなたの愛のタイプの考えであり、相手はまた違うかもしれません。
自分のタイプを知って、また相手にも、このお話をして、どのタイプなのか診断してみるといいでしょう。お互いの恋愛の理解に役立つはずです。
<賢者の答え>

A「美女の扉のほうを教える」
→この意見をもっともだと思ったあなたは……
あなたは【アガペ】(愛他的な愛)=《食べられる愛》タイプ。
愛はソントクではなく、無償のものであり、愛する人のためなら、自分が犠牲になることもいとわないところがあるでしょう。
この物語の王女だとしたら、命が助かった男が美女と仲良く一生をともにすることを、苦しみながらも、祝福もしてあげられるでしょう。少なくとも、男が死ぬよりはよかったと、間違いなく思うことでしょう。
それだけに、あなたのことを愛していると言ってくれる人に、あなたのために自分を犠牲にしてもかまわないという姿勢が見られないとき、ショックを受けてしまうかもしれません。「この人の愛は本物ではないのだろうか……」と。
でも、決して、そうとは限らないのです。
そして、世の中には、あなたの愛し方を理解できない人もいるのです。
理解し合うのも、愛し合うのも、とても難しいことですね。でも、それでも近づこうとするところに、価値があるように思います。

B「本音で言うと、虎のほうかも」
→この意見をもっともだと思ったあなたは……
あなたは【マニア】(狂気的な愛)=《食べる愛》タイプ。
この回答は、周囲から非難されることもあるかもしれません。「愛する人が虎に食い殺されてもいいのか!」「残酷で、自己中心的すぎる!」などと。
でも、そんなことはありません! 恋愛は本来は本能の領域のもの。恋愛の世界には、理性や常識や道徳は通用しないのです。
もちろん、他の人にとられないよう、本当に恋人を殺してしまえば、これは犯罪ですから、別の話です。でも、物語の中で、虎を選んでしまうのは、犯罪ではなく、あなたの愛がそのように激しく強いカタチをしているということです。
《食べる愛》は、相手に「食べられそうな恐怖」を与えてしまうことがあります。愛情が強すぎて、たじたじとしてしまうのです。そういうときには、ほどほどに抑えることも必要かもしれません。
でも、基本的には、自分の愛のタイプなのですから、自信を持って、自分らしく人を愛するほうがいいでしょう。と同時に、自分とは異なるタイプの愛を持つ人のことも、できるだけ理解してあげるように努力してみましょう。

C「どちらでもない方法を見つけたい」
→この意見をもっともだと思ったあなたは……
あなたは【プラグマ】(現実的な愛)=《食べない愛》タイプ。
食べたり食べられたりというような本能的で動物的な愛ではなく、もっと理性的で合理的な愛を求めています。理性を重視する、ある意味、人間らしい愛が好みなのです。
愛で破滅したりとか、心中とか、そういうことは愚かしく思えるでしょう。なぜもっと、建設的な愛ができないのか。
ただ、理性的であることは、本能的であることに比べて、ある種の弱さはあります。ムチャをしないので。愛を奪い合うような状況では、理性を保とうとしている間に、理屈抜きの人に、相手をさらわれてしまうかもしれません。
この物語でも、何か別の解決策はないかとか、こんな処罰はよくないと王様を説得したりしているうちに、男は虎に食べられたり、美女と結ばれてしまうかもしれません。
しかし、もし第3の方法を見つけられれば、たしかにそれがベストという強みもあります。
ちなみに、作家のジャック・モフェットはこんな解決法を思いついています。男は両方の扉をいっぺんに開けて、その間に隠れてしまうのです。


担当スタッフは「Cかな…でも、いざとなったら、Bかも?」と、考えてしまいました。あなたのまわりの女性はどのような意見でしょうか。いろんな人にこの物語の結末を想像してみてもらいたいですね。
津田先生「「女か虎か?」の作者はF・R・ストックトンは、読者から続きをせがまれて、「三日月刀の促進士」という続編を書いています。
ところが、これを読むと、謎が解決するどころか、さらに謎が増えるのです。とてもシャレた続編です。どちらのお話も、『山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー』(角川文庫)に入っています。残念ながら絶版ですが、アマゾンなどで古本が入手可能です。」

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