水鏡がつくり出す幻想的な円桜。風のない日に会いに行きたい

【木の特徴】
田んぼの水面に樹冠が映り、まんまるい形に見えます。こんなに美しい≪花の円≫を見たことはありません。

長い間、なぜか、桜の巨樹に心惹かれませんでした。
「桜を見に行こう!」しっかりと自ら意識して、初めて出会ったのがこの「天王桜」でした。
美しかった・・・。
桜の名所の話をしていて、群馬生まれの友人が「まんまるい桜なんだよ」と教えてくれたのですが、最初はピンときませんでした。自分の目で見てやっと納得しました。桜は小高い丘の上に立ち、手前から見ると、“まんまる”の意味がわかりません。けれど、丘を登っていくと、向こう側には田園風景が広がっていて、その田んぼの水面が鏡のように、桜の樹冠を映し、まんまるい形をつくり出していたのです。
その巨樹の上半分は本物の桜、下半分は水面の桜。青い空、青い水面、そこに淡いピンク色の桜の木。ほんの静かな風でも水面はゆれるので、水に映る桜もゆれて、くっきりとは見えなくなります。ところが一瞬、風がとまった時、水面は一面の鏡となって、完璧な姿で桜を映しました。樹冠は完全な円となり、形をくずすことなく、桜花のひと枝ひと枝を映し出していました。

夜もまた一層、美しく輝きます。
夕暮れになるとライトアップされ、淡いピンク色の花びらが黄金色や濃い紅色をおびて、昼とはちがう花色となって輝き出します。再び、小高い丘を登って、田園のほうから見ると、オレンジ色に光る桜の樹冠がまんまるく映り、なんとも幻想的な姿です。濃紺色の闇夜、まるで地上に月が降りたようでした。
桜、夜空、星、田園、そして、水という自然美を集約した、夜桜一樹。ほかでは決して見られない、光降る桜に酔いしれてください。

★この木を見るポイント⇒風のない時に行くといい。水面がゆれないので、完全な水鏡となり、桜の円も完璧になる。花の見頃は4月下旬~5月初旬

【歴史を伝える】
桜の種類はヤマザクラ。持ち主はこの近くにある蕎麦屋「天五庵」店主の千明長治氏で、西暦1818年(文化15年)に木の根元に石の祠をまつったことが伝えられています。その時にはすでに百年が経っていたとのことから樹齢三百年を超えるといわれています。

【この木に会いに行こう!】
関越道沼田ICから約35分

○杉原先生の著作

『偉人の花ことば』
定価:1,540円(税込)四六判・並製・240頁 ISBN:9784906828814
⇒ゴッホのヒマワリ、シャネルのツバキ、宇野千代のサクラ……。心をうるおし、背中を押してくれ、愛や感謝、励ましを伝えてくれる言葉たち。偉人たちが花に託した思いとは?
https://www.setsuwa.co.jp/publishingDetail.php?pKey=253


『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』
定価:3,080円(税込)A5判・並製・284頁 ISBN:9784906828357
⇒聖樹研究家の杉原梨江子先生が約220種の花の名前の歴史、物語、言い伝え、「シンボル」となるキーワードを丹念に集めました。植物学とは異なる、花の文化誌です。
https://www.setsuwa.co.jp/publishingDetail.php?pKey=67


○杉原先生がラジオ出演!
月に1度、『花のシンボル事典』から季節の花を紹介しています。
毎月・第3火曜日の19時25分から。
番組名:エフエムふくやま・本の情報番組「ブック・アンソロジー」<もっと素敵にマイライフ>のコーナーにて。
「YouTube(動画ラジオ)」でも聞けます。
『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』より サクラ(2022年3月)
https://www.youtube.com/watch?v=oBjWLyIrU4Y