残り少なくなってきた日めくりカレンダーが「しみじみ今年の反省会なんてしている場合ではないでしょう。色々やる事があるんだから? ほら、今日は獣医さんが来るんでしょう。だから、その前にお部屋を片付けておかなくては! 今年も残り少ないのよ」と朝から気持ちをせかしてきます。
そうです、もう年末なのですよね。

さて、今日はうちのネコさんのところに獣医さんが来る日でした。ピンポーンとドアチャイムが鳴り、重いバッグを抱えてやって来た獣医さん。さて今回のお話は、獣医さんに学んだ様々なことを書いてみようと思います。

ピピ9才。時々このお便りにも登場するうちのネコは、野良ネコ生活を謳歌? していてかどうかは不明としても、飼い主もないまま外で暮らしており、ボランティアの方のお世話でうちの子になりました。出会いはボランティア活動をしている方が多数のイヌやネコを保護しているスペース。この場所はご自身が仕事場として使用しているスタジオでもあり、仕事用の機材やらコピー機なども置かれており、スタッフの方の姿も見られます。
2014年の秋、獣医さんから「前の子のご供養にもなるし子猫を迎え入れませんか」のご提案。わたしもパートナーもそろそろ…と思っていた時だったので、二人そろって新しい家族を探しに出かけました。目的地までの道すがら「黒猫がいたら迎えたいなぁ」と夫。「今度は二匹にしようね。」などなど…話しながら到着。
現場に着いてみるとネコ・ネコ・ネコ…宙をとんでいるやんちゃな子、ケージの中で丸くなってすやすや寝ている子。ねこちゃんだらけの玄関から、ユウジロウなる茶トラの長老の前をまるで税関を通るようにして更に奥の部屋に行ってみると、無心に遊んでいる子、カーペットをかじっている子、またまたネコ・ネコ・ネコ…。お目当てのクロネコさんを見つけた夫が抱き上げようとしたところ、物陰に隠れてしまい、どうやらこの子とはご縁なし。そうこうしているうちに、現れた茶トラですばしっこい男の子。いきなり私の膝の上に座り込むなり身体をすりつけてスリスリ、ジッと見上げた視線が「ぼく一緒に帰るよ」と言っているように思えて(可愛くって、この子ズルですよね?(T_T))その場で「この子」と決めました。
迷うということは選択の余地がたくさんあり、決まらない状態なので今思ってみれば、ほぼ一瞬で決まったのは強い縁(えにし)で結ばれていたに違いありません。

さぁ、こうしてやって来た茶トラのピピさん。野良ネコさんだったため、いくつかのハンディキャップを抱えていました。先天的に良くないのが目と口腔内の不調で、これは定期的にケアをしなくてはいけなくて、獣医さんが往診してくれることになりました。
そこで、ここからが本題です。
獣医さんがやってくる日=ピピにとっては最悪の日。何しろ口をこじ開けられ歯石を削られ,前歯の牙まで切られてしまうのですから、あの子にとっては最低・最悪。心なしか往診予約の連絡をしている時には耳の集中力を駆使して聞き込んでいるようです。魔の日の訪れは何時? その日は絶体に捕まらない! きっとそう思っているのでしょう。そしてついにその当日。
奥に隠れてしまわないように、あちこちのドアを閉めてしまうので、もうその気配でバレバレ。あの子にしてみればピンポーンと共に獣医さんが登場するのですから、ドアチャイムの音は最大級のクライシスに違いありません。アラートが鳴り響き「命を守る行動をとってください」「ただちに避難してください」「高いところに逃げてください」とそんな感じの避難体制。獣医さんがリビングに到着した時にはもう影すらありません。そこで夫が探し回り机の奥の方に立てこもり身を縮め、耳を後ろに引いて必死でシャー!フ~~!シャー!と抗戦するネコと対決。
ここで、必死の抵抗をするネコさんに獣医さんからの救いが入りました。
「また来ますよ。この子が嫌がることを今日は辞めましょう。」
「でも、せっかく来てくださったのですから」と私たち。
そこで獣医さんが語ったことは「でもね、今まで築いてきたあなたたちへの信頼が崩れてしまうほうがもっと悲しいから、今日は雑談だけしてまた来ます」「ネコにとってあなたたちは親も同じこと。いつも大好きなおとうさんとお母さんが、自分を守ってくれないと感じてしまったらあの子の心は閉ざされてしまうのですよ」「私たちに比べて小さな命のあの子にとっては一大事」と…。
考えてみれば本当にそうですね。寿命という持ち時間の短さや身体の大きさという形からくる比較でも、小さな小さな身体です。なにも今日でなくてもよい事に関しては、スルーしてしまえばよいのです。
人間の都合を物差しにして合理的に物事を進めようとすると小さな命が悲しい思いをしてしまう。「また出直します」と言ってくださった獣医さん。何か大きな贈り物を頂いた気持ちになりました。

ここで、獣医さんに聞いた面白いお話をひとつ。「柴犬さんへのインフォームドコンセント」(これは現場で実践しているので実話です)
柴犬さんは犬種の中でも性格が真面目で納得がいかないことはすぐには同意しない、ただし納得がいくと素直になってくれるので、治療の前には方針をきちんと説明するというお話でした。
動物さんたちの治療に入る前にきちんと説明をする。「あなたが風邪をひくといけないので今日は注射をするために来たの。これが注射器でこれが針、このお薬を入れて、このあたりに打ちます。ちょっとチクッとするけれど…」
説明をする時には、器材を並べながら一呼吸を置き穏やかな表情で言って聞かせます。とこんな具合に動物たちに話しかけると心の温度差がなくなってスムーズに治療ができるのだそうです。

獣医さんからの今日のお話は良い人間関係を作る応用問題としても使えそうです。相手への無理強いから今まで築いてきた大切な人間関係がぎくしゃくしたり、守ってくれると信じていた人が信頼をうらぎるようなことをするなど、わたしたちの日常の中でも起こりそうなことです。その時にどうするか? その匙加減ひとつで未来が大きく変わってしまうといっても過言ではありません。
説明不足からくる不協和音も現実の中で悲劇をうむことがありますよね。言葉プラスその時の態度も大切なポイントのようです。相手からの感情が伝わってくる現象は感情伝染といわれ「ミラーニューロン」という脳細胞の働きによると考えられています。この作用、ポジティブな感情よりネガティブな感情の方がより伝わりやすいようで、怒りが伝達するスピードはとても速いとのこと。ということは、イライラしながらの説明や作業は相手に負の感情を送り込むことになり、結果的に良くない流れを作ってしまう。ここはやはり、一呼吸を置いて穏やかな表情でいくのが優しい対応になりそうです。

夕方が迫り「どっこいしょ」と重い診療鞄をさげて獣医さんは帰っていきました。その後ろ姿を見送りながら「今日は色々なことを教えて頂き、ありがとうございました」と深々頭を下げて見送り、なんだかいい日だったなぁ…と、心に灯が灯る思いでした。
ピピはといえば、30分もしないうちに何事もなかったかの様に椅子の上で毛づくろい。でも、まぁいいか。あなたのお陰で優しい人間関係をキープするヒントをゲットできたしネ。こうして、今日の日暮れを迎えました。冬が始まる少し前のある日の午後のこと。心が風邪をひきそうな方へのメッセージになると良いなぁと思いながら。
今日はここまで。

エミール

追記
12月1日に水星が山羊座に入宮。今までまとまりが付かなかったことが、ようやくなんとかなりそう。現実を良くみることがポイントです。6日には魚座内で逆行していた海王星が順行に。心のケアから感情表現に良い変化が訪れるのでハートへの薬箱を開けてみましょう。自分へのいたわりから相手への慈しみがうまれ、慈愛の輪が回り始めます。



2014年、この子は家族になりました。