雪うさぎが食べるのは、人の辛さや悲しみ……
大雪で被害にあわれた皆様に、心からお見舞い申し上げます。
都心でもまだ日陰では先日の大雪の名残が見られます。
さて、雪というと、思い出すのは子供の頃の雪遊びです。
いつもは布団からなかなか出たがらなかった私。
でも、目覚めたとき、雪の反射で部屋がふだんより明るくなっていて、外からシャリシャリシャリとチェーンをつけた車の走る音が聞こえると、寒さも忘れて朝食もそこそこに、早めに学校へ向かったものです。
学校には雪に浮かれて普段より早く登校をしてきた友達がたくさんいて、もう雪だるま作りや雪合戦が始まっています。
先生もそこは心得たもの。
朝のホームルームの時間をそのまま雪遊びの時間にしてくれたり、1時限目が体育だと授業そのものが雪合戦になったり……。
雪の日の思い出が、今でもいっぱい残っています。
中でもいちばん印象に残っているのは、母から聞いた雪うさぎの話です。
雪が積もると母は、小さな雪の塊を取ってきてお盆の上に載せて固めます。
そして細長い木の葉で長い耳、南天の赤い実で目を付けて、雪うさぎを作ってくれました。
私が雪うさぎのエサのつもりで庭の常緑樹の葉を取ってくると母は、
「雪うさぎは草や葉っぱは食べないの。雪うさぎが食べるのは、人の辛さや悲しみなのよ」
と教えてくれました。
そして辛いことや悲しいことがあったら、それを雪うさぎに話すと雪うさぎが食べてくれて、辛いことや悲しいことが溶けて消えてしまう、と話してくれたのです。
私は夢中で、学校の勉強が辛いことや、友達とのケンカなど、悲しいことを雪うさぎに話しかけました。
やがて雪が止み縁側に日が差し込んで、雪うさぎは溶けてしまいます。
少し悲しい気持ちで溶けた雪うさぎを見ていると
「雪のうさぎさんはあなたの辛さや悲しみを持って、お空に帰って行ったから、もう悪いことは起こらないからね」
と母。
でも今思うと、あの雪うさぎは私のためだけの雪うさぎではなく、母の辛さや悲しさも、きっと食べていたのだと思います。
もし、皆さんの街に雪が積もったら、お盆に小さな雪の塊を載せて、雪うさぎを作ってみませんか?