神を導く梯子の吉祥樹
松迎え、門松、松明......。神の依代として、日本の伝統行事に欠かせない、わが国の吉祥樹の代表といえるマツ。庭園などではきれいに剪定され、下枝は伐りとられていることが多いのでわかりにくいですが、海岸などで自然のままの姿をしているマツの枝が下向きに伸びていることがあります。その枝は古来、天から神様が降りてくるときの梯子(はしご)だと伝えられてきたのをご存知でしょうか。私自身、書物では知っていましたが、こんなに立派な、本物の「天の梯子」と会えるとは思ってもみなかったので、感動です。
群馬県桐生市にある崇禅寺の本堂前に立つ、堂々たる神様の梯子です。青々としたアカマツの幹から一本の枝が伸びています。自然と伸び始めた枝をお寺の方が丁寧に整え、ここまで育てられたのでしょう。枝が太く、地面までなだらかな傾斜で導かれ、神様がとんとんと歩いて渡るにも安心のように思えてきます。
崇禅寺は鎌倉時代、元久2(1205)年から約800年の歴史がある寺です。
初代執権である北条時政が追放され、子の北条義時が政権を握った頃からの始まりといいます。境内にはアカマツの老樹が立ち並び、「萬松山」と呼ばれるほどマツが多いお寺。このマツの向かいにも、背の高いアカマツがそびえています。マツの大樹は赤い龍のよう! 龍が空を昇るかのようにやや傾斜して伸びていこうとしています。そのダイナミックな立ち姿そのもの“神の依代”としての存在感をアピールしていました。崇禅寺ホームページを見ると、第二十一世ご住職、岩田真哉氏は「松樹千年翠」という言葉とともに、古い葉が新しい葉に移り変わりながらも、生命の息吹は常に変わることなく、千年の緑を保つマツについて伝えていらっしゃいます。
これこそが日本古来の常緑樹、マツへの信仰でしょう。寒い冬の間も緑をたたえ、春になれば新しい芽を出し、生命の営みが繰り返されることへの感謝の念。マツは毎日を無事に暮らせるという平和の象徴だと思います。
じつはここを訪れたのはマツが目的ではなかったのです。樹齢600年、日本一のイトヒバに会いに来たのでした。県指定の天然記念物になっているほどの巨樹。このお寺は木が大きく育つ磁場のようなものがあるのかもしれません。とはいえ、ひときわ大きくそびえるイトヒバなのに、最初、気づきませんでした。目的とは違う木と出会い、思いがけず心惹かれて、離れがたくなるのはよくあること。このマツもそんな1本でした。どこにも書かれていない巨樹、ご神木との出会いを大切に伝えていきたいと思っています。
それにしても不思議な姿をしていたなあ。赤い幹、龍のウロコのような樹皮、のたうつように曲がりくねった枝。訪れたのは8月初めのこと。生命力に満ち満ちたアカマツの熱と照りつける太陽の陽射し。広い境内を歩けば、真夏だというのにオレンジ色に染まった紅葉も見つけた。私は境内を流れる、熱い赤の生命 エネルギーにすっかりのぼせてお寺をあとにしたのでした。
★この木を見るポイント⇒アカマツの太い主幹から一本の枝が伸びているところ。これが天から神様が降りていらっしゃる「天の梯子」。赤い幹、龍のウロコのような樹皮にも注目。天然記念物のイトヒバもご覧ください。
【この木に会いに行こう!】
JR両毛線「桐生」駅、東武桐生線「新桐生」、上毛電気鉄道「西桐生」の各駅から車で約10分。
○杉原先生の著作
『偉人の花ことば』
定価:1,540円(税込)四六判・並製・240頁 ISBN:9784906828814
⇒ゴッホのヒマワリ、シャネルのツバキ、宇野千代のサクラ……。心をうるおし、背中を押してくれ、愛や感謝、励ましを伝えてくれる言葉たち。偉人たちが花に託した思いとは?
https://www.setsuwa.co.jp/publishingDetail.php?pKey=253
『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』
定価:3,080円(税込)A5判・並製・284頁 ISBN:9784906828357
⇒聖樹研究家の杉原梨江子先生が約220種の花の名前の歴史、物語、言い伝え、「シンボル」となるキーワードを丹念に集めました。植物学とは異なる、花の文化誌です。
https://www.setsuwa.co.jp/publishingDetail.php?pKey=67
○杉原先生がラジオ出演!
月に1度、『花のシンボル事典』から季節の花を紹介しています。
毎月・第3火曜日の19時25分から。
番組名:エフエムふくやま・本の情報番組「ブック・アンソロジー」<もっと素敵にマイライフ>のコーナーにて。
「YouTube(動画ラジオ)」でも聞けます。
『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』『偉人の花ことば』から季節の花をひとつご紹介。2022年10月「キク」
http://rieko-sugihara.com/information/2022102564_Flower_Kiku.html
群馬県桐生市にある崇禅寺の本堂前に立つ、堂々たる神様の梯子です。青々としたアカマツの幹から一本の枝が伸びています。自然と伸び始めた枝をお寺の方が丁寧に整え、ここまで育てられたのでしょう。枝が太く、地面までなだらかな傾斜で導かれ、神様がとんとんと歩いて渡るにも安心のように思えてきます。
崇禅寺は鎌倉時代、元久2(1205)年から約800年の歴史がある寺です。
初代執権である北条時政が追放され、子の北条義時が政権を握った頃からの始まりといいます。境内にはアカマツの老樹が立ち並び、「萬松山」と呼ばれるほどマツが多いお寺。このマツの向かいにも、背の高いアカマツがそびえています。マツの大樹は赤い龍のよう! 龍が空を昇るかのようにやや傾斜して伸びていこうとしています。そのダイナミックな立ち姿そのもの“神の依代”としての存在感をアピールしていました。崇禅寺ホームページを見ると、第二十一世ご住職、岩田真哉氏は「松樹千年翠」という言葉とともに、古い葉が新しい葉に移り変わりながらも、生命の息吹は常に変わることなく、千年の緑を保つマツについて伝えていらっしゃいます。
これこそが日本古来の常緑樹、マツへの信仰でしょう。寒い冬の間も緑をたたえ、春になれば新しい芽を出し、生命の営みが繰り返されることへの感謝の念。マツは毎日を無事に暮らせるという平和の象徴だと思います。
じつはここを訪れたのはマツが目的ではなかったのです。樹齢600年、日本一のイトヒバに会いに来たのでした。県指定の天然記念物になっているほどの巨樹。このお寺は木が大きく育つ磁場のようなものがあるのかもしれません。とはいえ、ひときわ大きくそびえるイトヒバなのに、最初、気づきませんでした。目的とは違う木と出会い、思いがけず心惹かれて、離れがたくなるのはよくあること。このマツもそんな1本でした。どこにも書かれていない巨樹、ご神木との出会いを大切に伝えていきたいと思っています。
それにしても不思議な姿をしていたなあ。赤い幹、龍のウロコのような樹皮、のたうつように曲がりくねった枝。訪れたのは8月初めのこと。生命力に満ち満ちたアカマツの熱と照りつける太陽の陽射し。広い境内を歩けば、真夏だというのにオレンジ色に染まった紅葉も見つけた。私は境内を流れる、熱い赤の生命 エネルギーにすっかりのぼせてお寺をあとにしたのでした。
★この木を見るポイント⇒アカマツの太い主幹から一本の枝が伸びているところ。これが天から神様が降りていらっしゃる「天の梯子」。赤い幹、龍のウロコのような樹皮にも注目。天然記念物のイトヒバもご覧ください。
【この木に会いに行こう!】
JR両毛線「桐生」駅、東武桐生線「新桐生」、上毛電気鉄道「西桐生」の各駅から車で約10分。
○杉原先生の著作
『偉人の花ことば』
定価:1,540円(税込)四六判・並製・240頁 ISBN:9784906828814
⇒ゴッホのヒマワリ、シャネルのツバキ、宇野千代のサクラ……。心をうるおし、背中を押してくれ、愛や感謝、励ましを伝えてくれる言葉たち。偉人たちが花に託した思いとは?
https://www.setsuwa.co.jp/publishingDetail.php?pKey=253
『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』
定価:3,080円(税込)A5判・並製・284頁 ISBN:9784906828357
⇒聖樹研究家の杉原梨江子先生が約220種の花の名前の歴史、物語、言い伝え、「シンボル」となるキーワードを丹念に集めました。植物学とは異なる、花の文化誌です。
https://www.setsuwa.co.jp/publishingDetail.php?pKey=67
○杉原先生がラジオ出演!
月に1度、『花のシンボル事典』から季節の花を紹介しています。
毎月・第3火曜日の19時25分から。
番組名:エフエムふくやま・本の情報番組「ブック・アンソロジー」<もっと素敵にマイライフ>のコーナーにて。
「YouTube(動画ラジオ)」でも聞けます。
『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』『偉人の花ことば』から季節の花をひとつご紹介。2022年10月「キク」
http://rieko-sugihara.com/information/2022102564_Flower_Kiku.html