水の神が心身を浄化。感染除け、家内安全、強い絆で苦難を乗り切る。

【ハート形の葉、上昇するひこばえ、気の力が蘇る浄化のカツラ】
まさしく「水の神」と会いたいなら、京都の貴船神社で3本のカツラを訪れるのがいい。それぞれに異なるご利益をもつ美しいご神木だ。
ここのカツラに会いたくなるのは心身ともに澱がたまっているようなとき。それらを洗い流し、まっさらな自分にしてくれるご神木だと信頼している。

貴船口から川のせせらぎに耳を傾けながら貴船川沿いを歩いて行くと、朱塗りの灯籠が見えてくる。その美しい石段を登っていくと、参門を入った左手にカツラの木が立っている。貴船神社でまず初めに会うカツラである。
本殿前にあるため、参拝する人々がみな見上げていく。境内の泉には「水占みくじ」があり、人々が一喜一憂するのをカツラは楽しそうに眺めている。

貴船神社のご祭神は高霊龍神(たかおかみのかみ)。水を司る神である。
解説によると、体内の気が滞ることを「気枯れ」といい、参拝すると神様の気に触れて、心身の気の力が再生し、生命力さらには運気が高まるとされる。
「キフネ」という名前は昔は「気生根」「木生根」と書かれ、万物の気が生じる根源の地、木が生い茂る水源の地という意味を含んでいる。
雨乞い、雨止み、水に関わる商売繁盛、航海の安全、子宝・安産などを祈願する水の神社にカツラは立っている。

【縁結びの相生のカツラ】
私が最も心惹かれるカツラは中宮にある結社(ゆいのやしろ)にある「相生(あいおい)のカツラ」だ。細いヒコバエが次々と出て、上へ上へと空高く聳えている。
すぐそばには同じ根から2本になった樹齢一千年の「相生のスギ」もあり、夫婦ともに長生きという、どちらも縁結びと夫婦和合のご神木である。もう少し進むと「連理のスギ」といって、スギとカエデがくっついた男女のご縁結びのご神木。この一帯は"縁結び"の気が流れているようだ。

結社のご祭神は磐長姫命(いわながひめのみこと)。恋を祈る神様として信仰され、平安時代には和泉式部が恋心を歌に託して祈願した話が残っている。
結び文を神前に結びつけて祈願すると、男女のご縁だけでなく、人とのよいご縁、仕事や進学などのあらゆるご縁を結んでくださる女神様だ。
水をたっぷりと含む「相生のカツラ」は過去の悲しみを洗い流し、苦しいご縁は断ち切って、新たな良縁を結ぶ力をくださるように感じる。このカツラと出会って約10年、私の周りのご縁も大きく変わってきたように感じるから、ご利益があったのかもしれない。

【奥宮の野生味あふれるカツラ】
3本目のカツラは奥宮に向かう森の中にある。少々わかりづらいが看板を目印に、凛と立つ姿をぜひ見てほしい。
奥宮本殿の下には龍穴があり、大地のエネルギーが吹き上がる場だと考えられている。そばには貴船神社の名前の由来の一つ、神武天皇の母である玉依姫(たまよりひめ)が乗ってきた「黄船」ではないかといわれる御船形石があり、境内そのものがエネルギー・スポットとなっている。そのためだろうか、樹皮はゴツゴツとして、ヒコバエはほとんどなく、太い幹がどっしりと立つカツラだ。野生味あふれ、他の2本のように繊細で清らかな姿とはまるで違う印象である。

本殿前1本目のカツラは浄化の力、結社の2本目は縁結び、奥宮の3本目は気を高める力、とそれぞれにご利益もイメージも異なるカツラ。
私がこうした木のご利益を信じられるのは、木が"いのち"を宿しているからだ。
長い歳月を生きてきた巨樹の下に立つと、自分の命と木の命とが共鳴し合う瞬間がある。その力強い生命エネルギーの交流は何ものにも代えがたい自らの力となり、日常に"願いが叶う"といった形で現れるように感じている。触ればご利益がある、そんな単純なものではない。

3本のカツラを訪れるときは鞍馬寺から貴船神社へと歩いていくことをおすすめしたい。
この辺りはカツラのご神木だけでなく、スギの巨樹も聳え立ち、牛若丸(源義経)伝説のある「義経スギ」には力強い気を感じる。途中、木の根がはびこる山道を歩いていると、大地のエネルギーが体中に漲るようだ。聖なる存在としての"何か"を特別に感じられる場所として、私はとても気に入っている。

【この木に会いに行こう!】
貴船神社 京都市左京区鞍馬貴船町180
○叡山電車「貴船口」駅下車、京都バス「貴船」バス停下車(現在、叡山電車は土砂崩れのため市原駅~鞍馬駅間の運転見合わせ、市原駅からバス振替輸送中)。
○京都バス(33番)「貴船」バス停下車。

○杉原先生の著作
『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』
定価:3,080円(税込)A5判・並製・284頁 ISBN:9784906828357
⇒聖樹研究家の杉原梨江子先生が約220種の花の名前の歴史、物語、言い伝え、「シンボル」となるキーワードを丹念に集めました。植物学とは異なる、花の文化誌です。
http://www.setsuwa.co.jp/publishingDetail.php?pKey=177


○杉原先生がラジオ出演!
月に1度、『花のシンボル事典』から季節の花を紹介しています。
毎月・第3火曜日の19時25分から。
番組名:エフエムふくやま・本の情報番組「ブック・アンソロジー」<もっと素敵にマイライフ>のコーナーにて。
「YouTube(動画ラジオ)」でも聞けます。
『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』より バラの実(ローズヒップ/2020年10月)
https://www.youtube.com/watch?v=LGgZ_aWo2ks