冥界から訪れる魂たちの饗宴

もうじき訪れるハロウィンは、紀元前、中央ヨーロッパを中心に広まったケルト文化で、立冬に祝われた新年の祭り「サウィン」が起源とされます。
「サウィン」とは、欧州各地で話されている言葉の古語では「夏の終わり」を意味したといいます。
昼が長く光に満ち溢れた生長と収穫の季節から、夜が長く冷たい生命活動のない死の季節に入るというわけです。

ケルト文化では、日没をもって新年第一日の始まりとしていました。
10月31日の「サウィン」の夜、「死」を象徴する闇の季節がいよいよ始まります。
すると、生と死の世界の垣根が取り払われてしまいます。
死の世界の住人は生の世界に彷徨い出て、家々に「もてなし」を求めて訪れるのです。

人々は「ソウル・ケーキ」呼ばれる小麦の菓子を供え、そのお下がりをいただいて死者と共に「宴」を催し供養しました。
でも、彼らを十分にもてなすことができないと……。
祖先や死者は怒って祟り、よくないこと(つまりいたずら)をします。

現在では、ハロウィンの晩、お化けやゾンビなどに扮装した子供が「トリック・オア・トリート、お菓子をくれないといたずらするぞ」と言って家々を巡ります。
「トリック・オア・トリート」は、祖霊や死者をないがしろにしてはならないとする戒めの言葉でもあるのです。

人々は、自分たちの命をも奪いかねない厳しい闇の季節「冬」を迎えるにあたり、死の世界の住人たちをもてなして、無事に光の季節「春」が迎えられることを祈りました。
こうして「死」を象徴する霊魂は慰められ、人々は厳しい冬を乗り越えられるとされたのです。

なんだかお盆にも似ているハロウィン、今年はお菓子を配るだけでなく、ご先祖様にもお供えをしてはいかがでしょうか?(K)

※参考文献
『ハロウィーンの文化誌』リサ・モートン:著 大久保庸子:訳 原書房
『ケルト 再生の思想-ハロウィンからの生命循環』鶴岡真弓:著 筑摩書房
『ケルト人の歴史と文化』木村正俊:著 原書房