焼け野原となった鎮守の森で、唯一生き残ったボケの花

【木の特徴-毎春、花を咲かせる】
原爆によって焼き尽くされた鎮守の森。
樹齢約300年のクスノキ、ムクノキ、エノキなど木々はことごとく焼失し、木に棲んでいたフクロウやムクドリなど動物たちも焼け死んでしまいました。
しかし、原爆投下の翌年、土の中から小さな芽が出てきたのが見つかりました。
「おう、このボケは生きとるわ!」根の力が残っていて、芽吹くことができたのです。

それから75年、ボケの木は大切に見守られてきました。
芽の数を増やし、今では細い幹の数十本が一本の太い幹のように見えるまでに成長し、毎春、美しい花を咲かせます。白、ピンク、オレンジ色、白と紅の混ざった花………など、さまざまな色があるのが特徴です。3月下旬頃から満開になります。

宮司の野上光章さんから、
「日の明るいうちにいらしてください。14時頃までかのう。花びらが太陽の光で透き通って、とてもきれいですからね」とアドバイスをいただいたことを思い出します。野上さんは昨年、亡くなられました。子供のとき被爆したことを丁寧に教えてくださった方でした。野上さんのお話はこのボケの花とともに伝えていこうと思っています。
【被爆を伝える】
当時、小学6年生だった宮司の野上さんは、父親と一緒にこの地に「鎮守の森」を取り戻すことを決めました。何から始めたと思いますか? クスノキの種を畑にまき、苗木を育てることからです。
種は、樹齢500年の夫婦クス(広島市西区・新庄之宮神社)から採取したものを分けてもらいました。境内には椿、梅、イタリアポプラ、ハリエンジュなども植えて大きく育つのをじっと待ちました。植えると言っても、今のような園芸店から苗を買ってくるわけではありません。野上少年と父親、知り合いのおじさんの3人で、山の中や斜面に生えた木を掘り起こし、長い道のりを大八車で境内まで運び、植えたそうです。
何年もかけて1本1本、木を植えていくなかで、ボケの木が芽生え、花が咲いたのですから、どんなに嬉しかったことでしょう。鎮守の森らしい境内を取り戻したのは昭和40年頃といいます。種から育てたクスノキも今や75歳を迎えます。幹周り3メートルにまで成長して、境内いっぱいに葉を繁らせています。
注連縄のある木はほとんどが当時、宮司さんたちが運んで植えた木。今も元気に育つ姿を見に行ってください。

【この木に会いに行こう!】
JR・広島電鉄「横川」駅下車、徒歩5分。

【被爆樹を知っていますか?】
広島市では、原爆の爆心地から約2キロ以内で被爆し、現存する161本を「被爆樹木」として登録し、保護しています。私はこの原爆を生きのびた木々を訪ね歩き、木のそばで生きてこられた被爆者の方々のお話を聴いてきました。あまり知られていない被爆樹のことを知っていただきたくて、季節ごとに少しずつ紹介します。

○杉原先生が広島の被爆樹、1本1本を訪ね歩いて紹介した本です。
『被爆樹巡礼 原爆から蘇ったヒロシマの木と証言者の記憶』実業之日本社
ISBN:9784408008813
https://www.amazon.co.jp/dp/4408008818/

○杉原先生の著作
『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』 説話社刊
定価:3,024円(税込)A5判・並製・284頁 ISBN:9784906828357
⇒聖樹研究家の杉原梨江子先生が約220種の花の名前の歴史、物語、言い伝え、「シンボル」となるキーワードを丹念に集めました。植物学とは異なる、花の文化誌です。
http://www.setsuwa.co.jp/publishingDetail.php?pKey=177


○杉原先生の携帯サイト(フィーチャーフォン)
ケルトの森 木精占術
http://celticforest.jp/


○ラジオ出演
月に1度、『花のシンボル事典』から季節の花を紹介しています。
毎月・第3火曜日の19時25分から。
番組名:エフエムふくやま・本の情報番組「ブック・アンソロジー」<もっと素敵にマイライフ>のコーナーにて。
※「エフエムふくやま」公式サイトのWEBラジオでお聴きになれます。「YouTube(動画ラジオ)」でも聞けます。
『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』より*タンポポ (2020年3月)
https://www.youtube.com/watch?v=3AoQyf83PKs