いつまでも心に残る、紫陽花月のひと

雨の中で美しく咲くアジサイ。
梅雨の間、刻一刻と花の色を変えていく様子は、平安の頃から、ゆれ動く女心のようと喩えられます。
6月に生まれたあなたも、繊細で、なにかと心動かされやすく、感情豊かです。
今日、思っていたことが、明日朝には正反対の考えになるなど、人を翻弄することもありそうです。
そうかといって、過激な発言や行動はしません。どちらかといえば物静かで、激しい心の変化は内に秘めています。
信頼する相手にしか、本心を見せないところがあるのです。


ところで、この花には素敵な恋物語があるのをご存知ですか?
ヨーロッパにアジサイを紹介したドイツ人医師シーボルトは、長崎出島のオランダ商館の医官として来日したとき、ひとりの女性と恋に落ちました。長崎丸山の遊女のお滝さんです。ふたりの間には女の子も生まれます。しかし彼は、シーボルト事件(1828年)をきっかけに日本を追放されてしまいます。

帰国後に著した『日本植物誌』で、彼はアジサイの種小名に「オタクサ」と名づけて発表しました。雨に濡れてしっとりと咲くアジサイの花に、二度と会えない恋人の姿を重ね、名づけたと伝えられています。
シーボルトだけでなく、18世紀後半、フランスの植物学者F・コメルソンが信頼する女性の名前オルタンスからとって、アジサイの属名に「Hortensie(ホルテンシア)」と名づけています。アジサイは忘れがたい女性の名前をつけたくなる花なのでしょうか。
このことから、シンボルは「思い出」。いつまでも相手の心に残るひと、それがこの花の月生まれの人なのです。
一般的な花言葉は「移り気」ですが、歴史に伝わるエピソードは「辛抱強い愛情」をシンボライズしています。


アジサイが花の色を変えるように、あなたの心はゆれやすいけれど、芯の通った信念をもち、ただひとりを長く深く愛します。でも環境や相手の言動によって、表面上は自分を自由に変える強さもあります。
年齢を重ねても美しさを保ち、様々な変化にも柔軟に対応しながら、忘れがたい人であり続けるでしょう。

●この花のミューズ(女神):お滝さん(シーボルトの恋人)
ヨーロッパにアジサイを紹介したドイツ人医師シーボルト(1796-1866)が愛した女性、楠本滝(1807-1869)。ふたりの愛は現代まで伝えられ、アジサイは長崎市の花となっています。

○杉原先生の著作(6月20日発売/説話社刊)
『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』
定価:3,024円(税込)A5判・並製・284頁 ISBN:9784906828357
聖樹研究家の杉原梨江子先生が約220種の花の名前の歴史、物語、言い伝え、「シンボル」となるキーワードを丹念に集めました。植物学とは異なる、花の文化誌です。
http://www.setsuwa.co.jp/publishingDetail.php?pKey=177
http://setsuwasha.com/


○杉原先生の携帯サイト(フィーチャーフォン)
ケルトの森 木精占術
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