枇杷の実のおいしい季節です。

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり……」で有名な『平家物語』。琵琶法師たちによって伝統楽器の琵琶(びわ)の音色にのせて語られました。一方ちょうど梅雨入り前のこの時期に、小さな洋ナシのような、しもぶくれ?の黄色い実をつけるのは、果物の枇杷(びわ)です。

花も咲くそうですが、開花期はなんと冬。よい香りながら地味で小さな花なので、与謝蕪村は「枇杷の花 鳥もすさめず 日くれたり」と詠んでいます。冬の夕暮れどきの寂しさを、鳥にも見向きもされない枇杷の花にかけたのでしょうか?

「枇杷を庭に植えると病人が出る」などということがあるようですが、じつは薬草として古くから使われていたそうです。江戸時代には「枇杷葉湯売り(びわようとううり)」が京都を中心に広まって、暑気あたりや食あたりの予防薬として広く飲まれていたとか。
実際、鎮痛効果のある成分を含むそうですが、じつは猛毒の青酸を発生させる物質も含むので、生半可な知識で使うのは避けた方がよさそうです。

一方、冒頭の『平家物語』などを語るときに琵琶法師が奏でた楽器の琵琶の原型は、紀元前にユーラシア大陸の西で生まれたといいます。古代中国では「琵琶(ビーバ)」と呼ばれたこの楽器が、日本に伝来したのは奈良時代が始まろうかという頃。正倉院の宝物には「螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんごげんのびわ)」など、美しい装飾をほどこした琵琶が伝えられています。
じつは、この楽器に形が似ていたので果実が「ビワ」と呼ばれるようになったのだとか。

あと1週間もすると、今はまだ青い梅が熟す季節、七十二候の芒種(ぼうしゅ)末候「梅子黄(うめのみきばむ)」です。
花が地味なので梅のようにもてはやされないのですが、梅と同じように昔から人の役に立ってきた枇杷。葉を刻んで布に入れて風呂に入れ「枇杷湯」にすると、美肌や疲労回復によく、あせもなどにも効き目があるとか。蒸し暑く汗ばむ時期だけに、枇杷を見直すよい機会になりそうです。

※参考文献・資料
『そだててあそぼう ビワの本』中井滋郎:編 赤池佳江子:画/農山漁村文化協会
『シリーズ・ニッポン再発見11 日本の伝統楽器-知られざるルーツとその魅力-』若林忠宏:著/ミネルヴァ書房
「日本芸術文化振興会」ホームページ https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/edc6/edc_new/html/201_gakubiwa.html
「はなたま」ホームページ https://hanatama.jp/eriobotrya-japonica.html
「農林水産省」ホームページ https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/naturaltoxin/loquat_kernels.html