今回とりあげる井伏鱒二(いぶせますじ)の『山椒魚』(さんしょううお)という短編の主人公の山椒魚も、まさにそんな状況でした。
谷川にできた岩屋を棲家(すみか)としている山椒魚は、ある日、その岩屋の出口から外に出られなくなっていることに気づきます。自分が思ったよりも成長していて、大きな頭がつかえて、どうしても無理なのです。
「なんたる失策であることか!」 と山椒魚は悲しみます。
『山椒魚』は、教科書にもよく載っているので、そこで出会った人も多いかもしれません。短い話ですが、井伏鱒二の代表作のひとつです。太宰治は、『幽閉』(これを改作したのが『山椒魚』)を読んで感銘を受け、井伏鱒二に師事したそうです。
一生、岩屋から出ることができなくなった山椒魚は、どんな気持ちになったでしょうか。 彼は、外の世界で自由に泳ぎ回る小魚たちを見て、「(一匹だけで動くことができずに、いつも群れになって泳いで)なんという不自由千万な奴らであろう!」と嘲笑(ちょうしょう)します。外のやつらのほうが不自由だと嘲笑することで、自分の不自由さの悲しみをなんとかやわらげようとするのです。 こういう気持ち、わかりますね。
でも、嘲笑しようにも、できない相手が現れます。
悲しんでいる山椒魚の前で、蛙が自由自在に川の中を泳いでみせるのです。蛙は山椒魚の状況に気づいているわけではないので、わざと見せつけているわけではありません。ただ、普通に泳いでいるだけです。でも、山椒魚にしてみたら、見せつけられているのと同じです。うらやましくてたまらなくなります。
そして、山椒魚は、 たまたま岩屋の中に蛙が入ってきたときに、 自分の身体で岩屋の出口をふさいで、蛙が出られないように閉じ込めてしまうのです。
蛙のことも、 自分と同じように不幸にしてやったのです。

蛙と山椒魚は言い合いをし、憎み合います。
月日は流れ、言い合いさえしなくなり、お互いに無視します。絶望の「ため息」を相手に聞かれないよう、お互いに気をつけていました。
ところが、ある日、蛙はついに大きなため息をもらしてしまいます。山椒魚はそれを聞いて、自分と同じ絶望を蛙の中に見出し、友情さえ感じて、もう蛙を外に出してやろうと思います。
「もう、そこから降りてきてもよろしい」
でも、蛙はもう弱っていて、動くことができません。
「それでは、もうだめなようか?」と山椒魚。
「もうだめなようだ」と蛙。
しばらくしてから山椒魚は尋ねました。
「お前は今どういうことを考えているようなのだろうか」
蛙は答えました。
「今でも別にお前のことを怒ってはいないんだ」
物語はこれで終わりです。 とても深い余韻があります。
もしあなたが山椒魚だったら、目の前で自由を謳歌して楽しそうに泳ぎ回る蛙を見て、どう思うでしょうか?

A.「やっぱり、閉じ込めたくなると思う」
B.「閉じ込めたくはなるけど、実際には閉じ込めないと思う」
C.「閉じ込めたくはならないと思う」

心が決まったら解説を読んでください。


このテストから学ぶテーマ
「人間はもともと不平等なもの」

『山椒魚』はさまざまな読み方ができます。いろんな人が、いろんな思いで物語をかみしめることでしょう。今回は、このお話を「平等」ということをテーマに、読んでみたいと思います。
人には、みんなと平等でありたいという気持ちがあります。というより「不平等は許せない」という強い気持ちがあります。これを【公平理論】と言います。
同じだけ働いているのに、自分は貧乏で、他の人は金持ち。
同じ男/女なのに、あの人だけモテて、自分はモテない。
同じ能力なのに、男性が出世しやすくて、女性が出世しづらい。
たとえば、そういうことは許せないわけです。一方で、他人よりもトクをしたい、上に行きたいという気持ちもあります。
同じだけ働いても、自分のほうが人よりもたくさんお金を手に入れたい。
同じ男/女でも、自分のほうが人よりもモテたい。
同じ能力でも、自分のほうが人より出世したい。
実際、多くの社会は不平等です。王様がいたり、貴族がいたり、カースト制度があったり。しかし、平等を求める強い気持ちが、それらを打ち壊してきました。そして、平等な社会が目指されています。
ですから、平等を求める心理は、気高い気持ちとも言えます。結婚においても、どちらか一方のほうがたくさんつくされている関係よりも、平等な関係のほうが、うまくいくと言われています。
つくしすぎると、かえって関係がこわれることもあるのです。平等であることは、それだけ心を安定させるのです。
日本でも江戸時代は士農工商という差別がありました。明治になっても華族制度がありました。戦後になって、アメリカの平等主義が日本に入ってきて、一気に平等が叫ばれるようになりました。平等になっていくのはいいことです。
差別がなくなるのは、何より素晴らしいことです。ただ、平等の意識が強くなりすぎると、これもまた問題が生じてきます。
平等に法律で裁かれる、平等に機会を与えられる、平等に義務をかせられる。こういう平等はいいのですが、人はついつい「なんでも平等であるべき」というふうに、考えが極端化していってしまいがちです。
自分は容姿に恵まれないのに、あの人はキレイで許せない。
自分は要領が悪いのに、あいつは要領がよくて許せない。
自分は夢がかなわなかったのに、あいつはうまくいって許せない。
自分は病気なのに、あいつは健康で許せない。
「自分は不幸なのに、他の人は幸福で許せない」
こういう気持ちは、とても危険なものです。他人に対する怒り、憎しみが高まっていって、極端な場合には、他人に危害を加えてしまう場合もあります。
山椒魚の場合もそうです。幸福な蛙が許せなくて、何の罪もない蛙を不幸にしてしまいます。でも、もしすべての生き物が、せまい岩屋の中で暮らすのが運命だったとしたらどうでしょうか? 誰もがそうなら、山椒魚もそこまで嘆き悲しまなかったでしょう。
「自分だけ不幸」なのがつらいのです。
人間は空を飛べませんが、だからといって深刻に悲しむことはありません。それはみんな飛べないからです。もしみんな飛べて、自分だけ飛べなかったとしたら、どれほど嘆くことでしょう。
つまり、「人は平等であるべき」という気持ちを、すべてのことに渡って強く持ちすぎると、他人との境遇の差が許せなくなってしまうのです。
これは他人事ではなく、私自身も体験しています。若くして病気をして長期入院をしたとき、「なぜ自分だけが」と苦しみました。自分より若い患者は病棟にいませんでした。
同じ歳の若者たちは、病院の外で青春を謳歌しています。
じりじりと心が焦げるようでした。もし移せる病気なら、みんなに移してやるのに、とさえ思いました。
でも、夜になると、小児病棟から子供の泣き声が聞こえてきます。子供の頃にもう病気になってしまう人もいるのです。さらに、赤ちゃんのときから重い病気の人もいます。
不平等と言えば、これほどの不平等はありません。私はようやく自分の心の偏りに気づきました。そもそも平等と思っていたのが、おかしいのだと。
幸せな家庭に生まれる子供もいれば、そうではない家庭に生まれる子供もいます。顔も、身体も、頭のよさも、性格も、みんなものすごく違っています。ずっと不摂生していても一生病気にならない人もいれば、普通に生きていても病気になる人もいます。
生まれたときから、人は不平等なのです。もし仮に、どこかで平等になるように線を引いてスタートしたとしても、マラソンのように、やっぱり大きな差ができていくでしょう。
これはもう仕方のないことです。 不平等があたりまえなのです。
社会は平等であるべきです。しかし、人間はそもそも不平等です。
このことを、きちんと分けて考えなければなりません。
でなければ、不平等に苦しみ、心が焦がすことになってしまいます。それは、空を飛べないことを悲しんで、その怒りと恨みだけで一生を送るような愚かしいことなのです。
と偉そうに言っても、私自身、まだ本当に不平等を受け入れられているとは言えません……。
『山椒魚』にこんな一節があります。
「山椒魚はこれらの活発な動作と光景を感激の瞳で眺めていたが、やがて彼は自分を感動させるものから、むしろ目を避けたほうがいいということに気がついた。
彼は目を閉じてみた。悲しかった。彼は自分のことをたとえばブリキの切りくずであると思ったのである。誰しも自分自身をあまり愚かな言葉で例えてみることは好まないであろう。ただ不幸にその心を掻(か)き毟(むし)られる者のみが、自分自身はブレキノ切屑だなと考えてみる。(中略) 『ああ寒いほど独りぼっちだ!』」
こういう気持ちになったときには、それが「平等であるべき」という思い込みのせいではないか、自問してみたほうがいいのではないでしょうか。
『山椒魚』のラストシーンのように、人は同じ不幸の中では、気持ちが通じ合います。
幸福な者と、不幸な者が、心を通じ合わせるのは難しいことです。しかし、その難しいことを、なんとかやっていきたいと、私自身も思っています。
<賢者の答え>

A「やっぱり、閉じ込めたくなると思う」
をもっともだと思ったあなたは……
「自分と同じ目にあわせたい」というのは、もちろんいいことではありませんが、自然な気持ちとも言えます。根本は平等を求める気持ちから発しているわけですから。
私自身もこれにとらわれました。しかし、山椒魚は蛙を閉じ込めて、救われたでしょうか。
確かに、一人で岩屋で過ごすよりは、蛙がいたほうが、気がまぎれたでしょう。不幸な仲間がいて、心強かったでしょう。友情も芽生えたでしょう。
しかし、蛙を出してやろうとしても、それはもう手遅れでした。蛙が死んだあと、山椒魚はどんな気持ちになるでしょう。岩屋に閉じ込められただけでなく、蛙を閉じ込めることに、自分の人生の多くを費やしてしまったのです。しかも、罪のない蛙を不幸にし、命を縮めてしまいました。このむなしさは、さらに山椒魚を苦しめることになるでしょう。
「同じ目にあわせてやりたい(平等にしたい)」と願うより、「人はもともと不平等なものだ」と思うほうが、ずっと心は落ち着きます。実際、それが真実です。
不平等を気にしていると、他人の幸福が、いちいち自分の不幸となってしまいます。岩屋の中に幸福を見つけることこそ、山椒魚にとっていちばんいいことだったのではないかと思います。

B「閉じ込めたくはなるけど、実際には閉じ込めないと思う」
をもっともだと思ったあなたは……
思うことと、実行することには、大きな差があります。殴りたいと思うことと、実際に殴ってしまうことは大きな差です。
しかし、いくら我慢ができたとしても、「閉じ込めたい(自分と同じように不幸にしてやりたい)」という気持ちがあるとすれば、実行せずに抑圧する分、さらに辛くなってしまうこともあるかもしれません。
山椒魚が、蛙と閉じ込めなかったとしたら、それほうがずっとましだったとは思いますが、それでもずっと蛙を羨望(せんぼう)し、蛙の輝かしさに比べて、自分は「ブリキの切りくず」だと思い続けるようなら、山椒魚の不幸は深まっていくばかりです。
「外のやつらは不自由だ」と強がりで思い込もうとするのではなく、外の生き物たちと自分を比べることをやめてしまえば、これがいちばん心が安定するはずです。
比べるのをやめることができないのは、「平等であるべき」「不平等は許せない」という気持ちがあるからです。もともと不平等なものなのだと思えば、自分のことだけを見ていられるようになります。
自分の今の境遇の中での幸福をさがせるようになります。それが結局は、自分にとってもいちばんいいことです。

C「閉じ込めたくはならないと思う」
をもっともだと思ったあなたは……
そもそも閉じ込めたいと思うことさえないあなたは、平等であるべきことと、平等を求めるのはおかしいことの区別が、きちんとついているということでしょう。理屈では区別ができても、感情的には区別するのは、かなり難しいことです。ですから、それができているのは、素晴らしいことです。
人を自分と同じ目にあわせたところで、自分が救われるわけではありません。一時的な怒りや憎しみが解消するだけで、後にはさらなる絶望が待っています。あなたはその絶望には入り込まずにすみます。
もし不幸な境遇になっても、他人と比べて、他人を羨望し、自分を境遇をさらに嘆くことをしないあなたは、不幸から最も抜け出しやすいタイプです。
もし山椒魚のように、岩屋から抜け出すことは不可能だとしても、不幸から抜け出すことまで不可能とは言えません。閉じ込めたりしなければ、蛙と仲良くなって、本当の友情を結べるかもしれません。岩屋の中にいても、外とおしゃべりはできますし、さまざまなものを見て、さまざまなことを考えたりできます。できることはまだたくさんあって、そこに幸福の種もたくさんあるはずです。
不平等への怒りの炎がそれらを見えなくします。そんな炎が心の中で燃え盛らないあなたは、不幸な境遇の中でも幸福を見出せる人です。

津田先生より
「今回はちょっと説教臭かったかもしれません(^^ゞ
自分自身の反省もこもっているせいでしょう。
なお、井伏鱒二は、『山椒魚』の発想のもとは、チェーホフの『賭け』という短編だと言っています。チェーホフの『賭け』は、「15年間、部屋の中にずっとこもっていられるかどうか」に、大金を賭けて挑戦する、というお話です。
また、ロシアの童話作家のシチェドリンにも『賢明なスナムグリ』という、よく似た短編があります。こちらは、「危険を避けることが大切」と親に教えられたスナムグリ(魚の名前です)が、穴を掘って、ずっとそこに死ぬまでこもっているというお話です。読み比べてみるのも面白いと思います。
井伏鱒二の『山椒魚』は、新潮文庫と岩波文庫から出ています。チェーホフの『賭け』は、『子どもたち・曠野 他十編』(岩波文庫)に入っています。シチェドリンの『賢明なスナムグリ』は、『シチェドリン選集 第1巻』(未来社)に入っています」

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スタッフより
今回のテストはとても考えさせられる内容でしたね。誰でも一度は「どうして自分だけ…」というような思いは通過してきていると思います。
もちろん、今現在そういうこともあるかもしれません。でも、どのような状況の中にあってもその中で幸せを探す、ということが、実は一番心が安らぐことなのだと気づかされる内容でした。自分的には、診断Cを目指しながら、現実にはBを思ってしまうかも…という結果です。みなさんはいかがでしたか?

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