「ある朝起きたら虫になっていた」(『変身』)とか、「城に呼ばれたのに、どうしても城にたどりつけない」(『城』)とか、不思議な小説を書いたカフカです。そのカフカに、「掟の門」という短編小説があります。 本でたった3ページくらいの、とても短いものです。 でも、実に不思議なお話で、これについて書かれた世界中の論文を合わせると、本一冊どころか、おそらく百冊は超えるのではないでしょうか。こんなお話です(原文のままではありません。簡略化してあります)。
「中に入れてください」と男が門番に頼むと、「今は入れるわけにはいかない」と門番。男は少し考えてから、「あとになったら入れてくれるんですか?」
「まあな」と門番。「とにかく今は入れられない」
仕方なく、男は待つことにしました。 門番が小さな腰掛けを与えてくれました。 男はそれに座って待ちました。 何年も待ちました。その間に、男は中に入れてくれるよう何度も門番に頼み、 門番をうんざりさせました。
でも、門番の答えはいつも同じでした。「まだ入れてはやれない」というのです。

ついに男は衰弱してきました。目の前が暗くなってきました。
そして、もういよいよ命が尽きるというとき、男の中に一つの疑問がわきました。
男はもう自分では身体を起こせないので、 門番に目配せをしました。 門番は男のほうに身をかがめました。
「今になって、まだ何か知りたいのか? 欲の深いやつだ」
「誰もが掟を求めているのに」と男はかすれる声で言いました。
「この長年の間、どうして、私の他には誰も、この門に来なかったのでしょう?」
門番は、命の消えていく男に言いました。
「この門はおまえのためだけのものだったのだ。他の誰もこの門の中には入れない。さあ、もう門を閉めるぞ」

これで物語は終わりです。「えーっ」と言いたくなる人も多いでしょう。このお話を読んだ3人が、 この男について、こんなことを言っています。

読者A 「この男は、なぜ門の前から去らなかったんだろう? ある程度待ったら、もうあきらめて、別のところに行けばよかったのに。何も死ぬまでいなくても」
読者B 「わたしは逆に、この男が去らなかった気持ちがよくわかる。でも、ずっと待ち続けたのに、この最後はつらい……。男がかわいそう」
読者C 「もしかすると、男はこれでよかったのかも。もし門番から入ってもいいと言われても、いざ入るとなると、男はためらったのでは」

あなたは3人のうち、どの意見にいちばん共感しますか?

心が決まったら解説を読んでください。



このテストから学ぶテーマ
「葛藤」
2つの気持ちがぶつかりあって、身動きがとれない

不思議なお話でしたね。「掟」とは何なのか、門の中はどうなっているのか? そもそもこの門はどこにあるのか? いろんな疑問が湧きますね。論文が山ほどあるのも、うなずけます。
いろんな解釈があっていいのだと思います。おそらく、いろいろなことにあてはまる物語なのです。人生の折々に、「ああ、あのお話に近いな」と感じることがあるかもしれません。今回は、私なりに、これを【コンフリクト(葛藤)】の物語として読んでみたいと思います。
【コンフリクト】というのは、複数の欲求がぶつかりあって、身動きがとれないことを言います。たとえば、Aランチも食べたいし、Bランチも食べたいし、どちらも選べないというのも、ひとつのコンフリクトです。(パソコンでも、複数のソフトがぶつかりあって、動作しなくなることを、コンフリクトと言うようですね)
人生では、大きなことから、小さなことまで、さまざまなコンフリクトを経験することになります。遊びたいけど、勉強もしなければならない、これもコンフリクトです。好きだけど、別れなければならない、これもコンフリクトです。
新しい生活を始めることになっている方々も、その門を前にして、新たなコンフリクトに出会うことになるかもしれません。
コンフリクトの辛さは、身動きがとれなくなってしまうところにあります。AランチとBランチでコンフリクトすると、結局どちらも食べることができないのです。
もちろん、ランチ程度のことであれば、どこかでコンフリクトから脱して、「Aランチにしよう」などと決断できるでしょう。しかし、そう簡単には結論を出せないことも多々あります。
そういう深いコンフリクトを、この物語はとてもよく表していると思います。自分が入るための門なのに、そこに自分が入れない。門のところでずっと腰掛け続けて、身動きがとれない。
たとえば、部屋にひきこもっている人たち。
「部屋から出ればいろいろと楽しいことがあるのに」と周囲の人は言ったりします。しかし、当人にとってみれば、部屋から出れば、イヤなことだってたくさんあるのです。楽しいことには近づきたくても、イヤなことからは遠ざかりたい。
その結果、身動きがとれなくなってしまうのです。「ひきこもっていたって仕方ないのに」と言う人もいますが、好きでひきこもっている人ばかりではなく、このお話の男のように、門のところで身動きがとれずに苦しんでいる場合もあるのです。
ニートの人たちにしても、そうです。
働きたくない怠け者の人たちばかりではありません。むしろ、「働きたい!」と思っている人も多いのです。でも、働くことにともなう、さまざまな問題があります。人間関係のこと、やりがいのこと、自分に何ができるのかということ……。
その結果、「働きたい気持ち」と「働きたくない気持ち」がぶつかりあって、コンフリクト状態となり、その結果、身動きがとれないのです。
【コンフリクト】には、じつは3つの種類があります。それについて、選択肢ごとの解説のところでご紹介していきます。【コンフリクト】から抜け出すには、やはりまず【コンフリクト】について知ることが大切だからです。
<賢者の答え>

読者A「この男は、なぜ門の前から去らなかったんだろう? ある程度待ったら、もうあきらめて、別のところに行けばよかったのに。何も死ぬまでいなくても」
→この意見をもっともだと思ったあなたは……
あなたは【接近 = 接近コンフリクト】を起こしやすいタイプ。
「あれがやりたい」と「これがやりたい」がぶつかりあうコンフリクトのことです。どちらも前向きな欲求であるところが特徴です。
「あの人が好き」と「この人も好き」で、どちらも選べないとか。女性なら、「仕事を休まず続けたい」「子供も欲しい」で、なかなか決断がつかないとか。基本的に前向きで、いろんなやりたいことがあります。それはとてもいいことですが、それぞれがぶつかりあって、コンフリクトを引き起こしてしまうと、どれも選べない、身動きがとれない状態に陥ってしまうので、注意が必要です。
あなたの場合は、コンフリクトから脱するには、コンフリクトを与える環境からいったん遠ざかったほうがいいでしょう。たとえば、しばらく休暇をとって旅行に出るとか。そうすると、自然と自分の選ぶ道が見えてきます。

読者B「わたしは逆に、この男が去らなかった気持ちがよくわかる。でも、この最後はつらい……。男がかわいそう」
→この意見をもっともだと思ったあなたは……
あなたは【回避 = 回避コンフリクト】を起こしやすいタイプ。
「あれがやりたくない」と「これがやりたくない」がぶつかりあうコンフリクトのことです。どちらも避けたい気持ちであるところが特徴です。「勉強したくない」と「でも成績が落ちるのはイヤ」がぶつかりあって、勉強机にはつくのだけれど、だらだらと勉強以外のことをしてしまったり。「職場がイヤ」と「でも仕事を失うのもイヤ」で、とりあえず現状のまま身動きがとれなかったり。「こんな人とは別れたい」と「でも別れるのはイヤ」で、腐れ縁が続いたり。
イヤなことを避けたい気持ちが強いということです。いろんなことを避けようとするせいで、かえってぶつかりあって、逃げられなくなってしまいがちです。それだけ真面目で真剣ということでもあります。あなたの場合は、コンフリクトから脱するには、もっといい加減な気持ちになってみることです。肩の力を抜いて、人生をもっと楽に考えてみましょう。大きな空を見上げて、「たかが成績じゃないか」「たかが仕事じゃないか」「たかが恋愛じゃないか」そんなふうに、いったん吹っ切ってみると、意外に自分の本当の望みが見えてきます。

読者C「もしかすると、男はこれでよかったのかも。もし門番から入ってもいいと言われたら、男は入ることをためらったのでは」
→この意見をもっともだと思ったあなたは……
あなたは【接近 = 回避コンフリクト】を起こしやすいタイプ。
「あれがやりたい」と「あれがやりたくない」がぶつかりあうコンフリクトのことです。ひとつのことに、やりたいとやりたくないの両方を感じるのが特徴です。
「結婚したい」と思っていたのだけれど、いざ結婚が近づいてくると、だんだんイヤになってきて、やめたくなり、でもやめると、今度はまたしたくなってくる……。結局、結婚することも結婚しないこともできない。
じつはカフカは、まさにそういうコンフリクトを起こしています。その結果、同じ女性と二度、婚約して、二度、婚約破棄しています。その後も、別の女性と婚約して、また破棄しています。生涯、結婚したいと願いながら、ついに結婚することはありませんでした。
さすがは「掟の門」の作者ですね。
カフカほどではないにしても、あなたもそんなふうに、やりたい、やめたいのくり返しに陥らないよう注意が必要です。基本的に、やる気があるのです。それだけに、完璧にやらねばという気持ちがあり、そのせいで、逆にためらいも大きくなるのです。
あなたの場合は、コンフリクトから脱するには、物事の見方を意識的に変えることが大切です。最初はその良い面を見て「やりたい」と思い、いざ実行が近づいてくると、悪い面を見て「やりたくない」と思ってしまうところがあります。その逆に、最初は悪い面もちゃんと見るように心がけ、いざ実行が近づいてきたら今度は良い面を見るように心がけてみましょう。そうすればパランスがとれます。


津田先生「カフカの短編【掟の門】は、次の文庫本に入っています。よかったら、ぜひ読んでみてください。タイトルは本ごとに少しちがっています。
『変身/掟の前で 他2編』 (光文社古典新訳文庫)
『カフカ短編集』(岩波文庫)
また、長編小説『審判』(『訴訟』とも訳されます)の中の「大聖堂にて」という章の中にも、このお話が出てきます。

スタッフが設問を初めに読んだとき「えっ、読者A以外の選択をする人っているのかな」と、正直思ってしまいました。でも解説を読むと、なるほど…自分が「この選択だろう」と思うからといって、必ず他の人もそうとは限らないのですね。
人には様々な価値観があり、自分とまったく異なる感じ方や選択をする人もいるんだなあ…とあらためて思いました。多くの人の悩みを理解するためにも気づけて良かったなと思う、今回のテーマだったと思います。

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