今回は「冷たい方程式」というSF短編小説をご紹介します。
作者はトム・ゴドウィンです。
惑星ウォードンで病気に苦しむ人々を救うために、 血清を載せた宇宙船が飛び立ちます。宇宙船にはひとりのパイロットと血清しか載っていないはずでした。
ところが、途中で密航者が見つかります!
惑星ウォードンにいる大好きな兄に会いたい一心で、 ひとりの少女が宇宙船に潜り込んでいたのです。
「ばれちゃった!」と微笑む少女。「罰金をとられるの?」
でも、罰金なんかですむことではなかったのです。
宇宙船には惑星ウォードンに到達できるだけの ぎりぎりの燃料しか積まれていませんでした。ひとり分の重量が増えたら、途中で燃料切れになってしまって、 惑星ウォードンにはたどり着けません。
そんなことになったら、パイロットと少女はもちろん、 惑星ウォードンで待っている病気の人々も助かりません。こういう非常時のために、宇宙船には定められた規則がありました。
「密航者は、発見と同時にただちに船外に遺棄する」
船外に放り出されれば、もちろん即死です。
驚く少女。
「わたしは死ななければならないようなことはしてないわ!」
パイロットも、なんとか少女を助けたいと思います。しかし、近くには他に星もありませんし、他の宇宙船も近くにはいません。重量を減らすために捨てられるものも船内にはありません。
血清を捨ててしまえば、惑星ウォードンにいる病気の人々が助かりません。どう検討してみても、少女を船外に遺棄するより他、ないのです。少女が船内にいられるのは、あと数時間だけ。 その後は……。

もし、あなたが少女だったら、どうしますか?

A「宇宙船が無事につかないと、たくさんの人の命が失われる。そうならないよう、自分が船外に出よう」

B「一人分の重量が減ればいいんだから、パイロットを船外に出しちゃえ。宇宙船はきっと自動操縦だろうし、なんとかなるはず」

C「船外に出されないよう逃げ回って、どこかに隠れよう。私を放り出すのが無理となったら、何か別の方法を無理矢理にでも考え出してくれるはず。それに賭けよう」

心が決まったら解説んでください。



このテストから学ぶテーマ
「自己犠牲について」

ご紹介したストーリーは、心理テストにする都合上、少しだけ変えてあります。また、ラストは伏せておきました。
この作品が名作と言われるのは、とても考えさせられるからです。
なんとか解決策がないものか、 いろんな作家が「○○の方程式」という短編を書いて、考えています。
たとえば、筒井康隆の「たぬきの方程式」とか、石原藤夫の『解けない方程式』とか。たくさんあるので、「方程式もの」と呼ばれたりしています。
私が好きなのは、『黄泉がえり』で有名な梶尾真治の「フランケンシュタインの方程式」。また、私自身、「緑色の方程式」という漫画を書いています(原作担当。作画は人見茜さん。「秋田書店DX」「ベストヒットCOMICS」などのモバイルサイトで携帯用に配信中の『心理サプリ』の中の1話です)
この作品が問いかけてくるのは、【自己犠牲】の問題です。
少女は、宇宙船やパイロットや惑星ウォードンの病気の人々のために、自分を犠牲にしなければならないのか?
あるいは、少女を助けるために、パイロットが犠牲になるべきなのか?
それとも、目の前の少女を助けるために、血清を捨てて、惑星ウォードンの病気の人々の命を見捨てるのは許されることなのか?
とても、正解のある問題ではありません。誰かが犠牲になるしかないのです。
「自分がソンをしてでも、人のためになることをしなさい」
昔の日本では親が子にそう教えていました。今ではこんな考え方は、鼻で笑う人も多いかもしれません。
「人のために自分がソンしてどうすんの! 自分がトクするためなら、人をソンさせるくらいでないと」という勝ち組志向の人も多いでしょう。
「ソンをしてはつまらない。トクをしたい」という自己中心的な考えが基本にあります。
では、昔の日本よりも、今のほうがみんなトクをして、幸福になっているでしょうか?
これが不思議とそうはなりません。みんながトクをしようとすると、競争になるせいもありますが、それだけではありません。

実は「自分のために頑張る」よりも、「人のために頑張る」ほうが、力が出るのです!
日頃は狐に簡単にやられてしまう鳥でも、ヒナを守ろうとするときには、びっくりするような力を発揮して、狐を撃退します。
【自己犠牲】は、じつは自分が全力で前向きに人生を生きるために、とても大切なのです。
大震災後、多くの人がボランティア活動をしておられます。自分の時間や労力を代償なしに提供しているのですから、これも一種の【自己犠牲】です。
でも、人を助けると、自分の気持ちも救われます。
余裕のある人が、他人を助けるのではなく、むしろ自分も悩んでいる人こそ、人を助ける活動をするべきと言われています。
こういう【自己犠牲】は、相手も自分も助かるのですから、素晴らしいものです。

しかし、一方で、無理に強いられる【自己犠牲】というのもあります。被災地の方々などは、まさにそうです。辛い状況に耐えていかざるをえません。こういう無理に強いられる【自己犠牲】は、心の救いにはならず、むしろ大きなストレスになります。
また、【自己犠牲】には怖い面もあります。戦争中、多くの人が、国のために自分を犠牲にしました。自分のためなら、人を殺すことができない人でも、国のためなら、殺せたりします。
先に述べた「自分のためではなく、人のためのほうが力が出る」ということが、こういうことを引き起こしてしまう場合もあるのです。
【自己犠牲】は美しいばかりではありません。さまざまな側面を持っています。
今回は「冷たい方程式」を題材に【自己犠牲】について考えてみました。
<賢者の答え>

A「自分が密航したのがいけないんだから、自分が船外に出る」
→この意見をもっともだと思ったあなたは……
あなたは【自己犠牲】をいとわないタイプ。 自分のトクばかりを考えずに、人のためにソンのできる献身的なところがあります。 また、そのソンを、ソンとは感じずに、「相手が喜んでくれたので嬉しい」「自分が人の役に立てて嬉しい」など、自分の中でプラスに転換することができます。 そして、人のためなら、自分でも驚くほどの力を発揮することができます。
それは素晴らしい美質です。 ただ、他人から無理な【自己犠牲】を強いられたときに、それを受け入れてしまいやすい面も。もちろん、逆らったり、はねつけたりすればいいとは限りませんが、あまり【自己犠牲】ばかりを強いられ続けていると、ストレスで心が弱ってしまいます。イヤものはイヤということも必要です。
また、愛する人のためなら、自分でも思いがけない力が出るだけに、してはいけないことまでしてしまうことも。誰かのために、別の誰かを傷つけないよう、気をつけましょう。 気をつけるべきところに気をつけさえすれば、周囲も自分も幸せになっていけます。

B「ひとり分の重量が減ればいいんだから、パイロットを船外に出しちゃう」
→この意見をもっともだと思ったあなたは……
あなたは【自己犠牲】を拒絶するタイプ。 非難されることもあるかもしれませんが、これはこれで決して間違ってはいません。 法律にも「緊急避難」というのがあります。自分か助かるためなら、人を犠牲にしても、罪には問われないのです。
これはもともとは「カルネアデスの板」というギリシャの哲学者の出した問題に由来します。「船が難破し、溺れかけた2人が、1枚の板にすがりついた。でも、2人には小さすぎて、このままでは2人とも沈んでしまう。そのとき一方が、もう一方が突き飛ばして、自分だけ助かっても、これは罪にはならない」というものです。
ただ、こういう選択は、あくまでぎりぎりのところでなされるべき選択です。 常日頃から「【自己犠牲】はいっさいしない」という姿勢だと、かえって人生はうまくいかなくなってしまいます。自分のためだけに出せる力はたかがしれていますし、ソンをしないための人生は、ギスギスしたものになってしまいがちだからです。
日頃は、ある程度の【自己犠牲】も積極的に行っていきましょう。その上でなら、ぎりぎりの選択のときには【自己犠牲】を拒否できる強さは、あなたの美質です。

C「どこかに隠れて、別の解決策が見つかることに賭ける」
→この意見をもっともだと思ったあなたは……
あくまで誰も犠牲にしない方法を考えようとするあなた。 これも決して悪いことではありません。
こういう考え方は、解決にとても時間がかかるという難点はありますが、誰も傷つけないようにする(自分も含めて)は、じつに素晴らしいものだからです。あくまで、あきらめずに、第3の道を模索する…こういう姿勢が、今までにない道を切り開くことも、決して珍しくありません。
ただ、この物語のように時間が限られている場合、もしそのまま解決策が見つからなければ、あなたもパイロットも惑星ウォードンの病気の人々も全員が死ぬという、大惨事を引き起こしてしまいます。被害を最大にしてしまう危険性も秘めているということです。
時間があるときには、あくまで誰も犠牲にしない道を探し続ける、そして時間に限りがあるときには、辛い決断をする勇気も持つ。 難しいことですが、そういう気持ちをどこかに持っておくと、役立つときがくるはずです。

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