王妃マリー・アントワネットの気品を支えた花

晩秋から春の初めまで長く咲くスイセン。
寒い冬にこの花を目にすれば春への「希望」を感じ、お正月には新年の「喜び」を、2~3月頃には「春の訪れ」を届けてくれます。

学名「ナルキッスス」はギリシャ神話に登場する美少年の名前が由来です。
泉の水面に映る自分の姿に恋したナルキッソス。手で触れようとすれば消えてしまう儚い恋。
自分に恋焦がれて死んだあと、その地に1輪の白いスイセンが咲いたと神話は語ります。この誕生伝説から「ナルシシズム(自己愛、自己陶酔)」を象徴する花でもあります。

スイセンが象徴するミューズは、フランス王妃マリー・アントワネットです。
歴史上の彼女のエピソードは語り尽くされていると思いますので、ここでは花を愛した1人の女性の姿を紹介しましょう。

スイセンが植えられていたのは、ベルサイユ宮殿から少し離れたトリアノン宮殿。この場所はアントワネットにとって憩いの場。
堅苦しい宮廷儀式から逃れて、自分の時間をゆったりと過ごせる場所でした。
ここに造られたのが美しい庭園。一流の造園家や園芸家、建築家を集め、自らも設計や花の選択に関わり、夢の花園を造ったのです。

スイセンは、庭園のいちばん奥に造られた「王妃の村里」の遊歩道、花壇などに植えられました。
そこは素朴な農村の風情漂う、まさしく村里といった場所。
わら葺きの田舎家、風車、鳩小屋があり、家畜もいて、美しい湖もありました。
菜園では、アントワネットは白いシャツと麦わら帽子姿でイチゴを摘み、花の手入れをしたといいます。ラッパスイセンのほか、1つの茎に10個もの花が咲く八重咲きの品種などが植えられました。

アントワネットが何よりもスイセンに心惹かれた理由は、ナルキッソスの物語だったかもしれません。
トリアノン宮殿の客間を飾る絵画は『ナルシスの変身』。フランス人画家二コラ・プッサン(1594~1665)が描いたこの絵をことあるごとに賞賛していたそうです。
パトロンとなっていたドイツ人作曲家グルック(1714~1787)のオペラ『エコーとナルキッソス』も鑑賞しています。

自己愛、自己陶酔を象徴するスイセン。
自分を愛し、自分を美しく彩るものに囲まれた生活に没頭したアントワネットこそ、自己愛の人でしょう。フランス革命によって時代が大きく変わろうとするとき、反革命勢力を形成して抵抗し、民衆を敵に回したアントワネット。その破滅は、自分をとりまく華やかな生活への陶酔がもたらしたといえるのではないでしょうか?
とはいえ、彼女はギロチン台に上がるときも毅然とし、気品ある態度を崩さなかったと伝えられています。
この潔さ、最期のときの心の静けさは、いい意味での「自己愛」なくして成し遂げられなかったと思います。

<11月に生まれた人へのメッセージ>
あなたは優雅で、美しい人。何も語らなくても、一目置かれるような品格を供えています。心に秘める願いは不言実行。
一方で、気まぐれなところがあり、思いついたことは何にでも手を出してしまうため、周囲を振り回し、信頼を失うことも。
華やかな場所が似合うあなた。小さなことにちょこちょこトライするより、大きな夢に向かって行動を起こしましょう。

●この花のミューズ(女神):マリー・アントワネット(1755~1793)
フランス国王ルイ16世の王妃。ハプスブルク家、オーストリア女帝マリア・テレジアの4女としてウィーンで生まれ、1770年に結婚。美貌と才知に恵まれるがわがままで浪費癖があり、国民の反感を買った。ベルサイユ宮殿では贅を尽くした生活を送り、離宮トリアノンに美しい庭園を造らせた。フランス革命の際、国外逃亡を図るが失敗。1793年10月、断頭台で処刑。花を愛した王妃は監獄にもお気に入りの花々を持ち込ませたと伝わる。享年37歳。

○杉原先生の著作
『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』 説話社刊
定価:3,024円(税込)A5判・並製・284頁 ISBN:9784906828357
http://www.setsuwa.co.jp/publishingDetail.php?pKey=177

○杉原先生の携帯サイト(フィーチャーフォン)
ケルトの森 木精占術
http://celticforest.jp/

○ラジオ出演
月に1度、『花のシンボル事典』から季節の花を紹介しています。
毎月・第3火曜日の19時25分から。
番組名:エフエムふくやま・本の情報番組「ブック・アンソロジー」<もっと素敵にマイライフ>のコーナーにて。
「YouTube(動画ラジオ)」キク放送中
https://www.youtube.com/watch?v=0w5opl0nzUU