愛するがゆえの執念「咲かずの桔梗」

平安の昔から、秋の訪れを告げる花の1つです。
ひっそりと咲く花ですが、花びらの青色は深みがあって美しく、宝石のサファイアを思わせます。

古来、キキョウは吉運をもたらす花。
漢字名「桔梗」は「更に吉」という語呂合わせから、「縁起を担ぐ」という良い意味が秘められています。別名「オカトトキ」も「多徳、加徳」を意味する朝鮮の言葉「トトク」から名づけられました。
武士の家紋にも多く用いられ、源頼朝の御家人・土岐光衡(ときみつひら)の「桔梗紋」を筆頭に、坂本龍馬の「組み合わせ角に桔梗紋」、明智光秀の「影桔梗」、太田道灌の「太田桔梗」などがあります。

キキョウを象徴するミューズも、日本の歴史から紹介しましょう。
平将門(たいらのまさかど)の妻とされる桔梗姫(ききょうひめ)です。
埼玉県秩父市に伝わる、有名な「咲かずの桔梗伝説」はこの女性が主人公。愛するがゆえの執念を感じる物語です。

舞台は、平将門(?―940)終焉の地の1つとされる城峰山(じょうみねさん)。
わずかな手勢を引き連れ、山に築いた城に立てこもる平将門に桔梗姫は連れ従っています。
ある時、桔梗姫は敵の藤原秀郷(ふじわらのひでさと)に情報をもらしたと疑われ、将門は真偽を問うことなく責め立てます。桔梗姫は黒髪を振り乱して無実を訴えますが彼は聞く耳もたず惨殺されてしまいました。
死ぬ直前、「この山にはキキョウの花は咲くまいぞ!」と絶叫し、以来、秋の花が咲く季節になっても、この山には一切花が咲かなくなりました。

花が咲かない理由には、桔梗姫の恨み説、平将門の怨念説など様々にあります。
実際にはキキョウの根が生薬となり、良質の根を取るために花が咲くとすぐ摘んだので、花が咲いていないように見えたそうです。それが伝説のもとではないかとも言われています。

この物語が私たちに伝えるのは、恨みの念をどう生かすか。
桔梗姫が死んだのは将門の死後という説もありますが、愛する人に疑われたことへの無念、寂しさは大きかったでしょう。
現代でも、信頼する人とのすれ違い、理不尽な仕打ちは多々起きますね。あなたなら、その恨みつらみを人生にどう転換していきますか。
花の咲かない未来ではなく、負のエネルギーを情熱に変えて、花を咲かせる人生へと導きたいものです。

<10月に生まれた人へのメッセージ>
あなたは物静かで、独特の色香を漂わせる人です。
芯の強さを秘め、リーダーを支える能力に長けています。弱気になった人を元気づけたり、笑顔をもたらしたりと縁の下の力持ち。
ただし執念深いところがあり、理不尽な出来事をうじうじと考えてしまうところがあります。過去の傷もあなたの魅力となっているんですよ。
怒りも後悔もバネにして、毎日を過ごせば叶わない夢はありません。

●この花のミューズ(女神):桔梗姫(生没年不詳)
平安時代中期、平将門の妻(または愛妾)。将門との間に3人の子をもうけたとされる。長刀(なぎなた)の名手。一説に将門を討った藤原秀郷の妹とされ、兄のスパイだったなど諸説ある。その死に方も、自害説、将門の死後まで生存説など様々にあり、取手市には桔梗姫のお墓とされる供養塔がある。謎の多い女性である。

○杉原先生の著作
『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』 説話社刊
定価:3,024円(税込)A5判・並製・284頁 ISBN:9784906828357
http://www.setsuwa.co.jp/publishingDetail.php?pKey=177

○杉原先生の携帯サイト(フィーチャーフォン)
ケルトの森 木精占術
http://celticforest.jp/

○ラジオ出演
月に1度、『花のシンボル事典』から季節の花を紹介しています。
毎月・第3火曜日の19時25分から。
番組名:エフエムふくやま・本の情報番組「ブック・アンソロジー」<もっと素敵にマイライフ>のコーナーにて。
「YouTube(動画ラジオ)」第15回キンモクセイ放送中
https://www.youtube.com/watch?v=n6-x1oZatXc