人生のはかなさ、哀しさを歌に託して

秋の七草の1つ、ハギ(萩)。
しだれた細い茎に小さな花がぽつぽつとついた姿はしとやかで、清楚な女性を思わせます。昔から日本では夏の着物や浴衣に描かれ、ひと足早い秋の訪れを表現しました。しだれたハギが秋風に吹かれる様子を想像させ、涼しさを呼ぶという、日本人ならではの感性ですね。
夏の暑さが残る9月、ハギ模様のハンカチや手ぬぐいなどで、涼をまとってみてはいかがですか。

ハギが象徴するミューズは、小野小町です。
日本が誇る、絶世の美女。平安前期に活躍した三十六歌仙の1人です。
情熱的な恋の歌を数多く詠み、中でも優雅な中に人生のはかなさ、哀しさを湛えた歌が多いと評されています。彼女は出生地、生没年ともわからないため、小町のお墓が全国各地にあり、伝説も多いですね。ハギにまつわるこの物語もその1つです。

この物語の主人公は小野小町の母親です。
昔々、彼女がまだ子供だった頃のこと。
小町の父親は出羽国(現在の山形、秋田)の郡司(地方官)である小野良真(よしざね)。その後妻に入った母親は、夫、良真が留守の間、前妻の子供2人を殺す計画を立てます。
そこで登場するのが「ハギ」。庭の池にハギの茎で編んだ橋をかけて、2人に渡るよう命じます。
細いハギで作った橋など渡れるわけがありませんね。
子供たちは水の中にざぶん……、彼女は子供たちを溺れ死にさせてしまったのです。
厄介払いをしたと思ったのも束の間、家に戻った良真にすぐバレて、離縁されて追放。その後の行方はわかりません。
小町は母親にはついて行かず、父、良真のもとで大切に育てられたと伝わりますが、幼い小町の心に母親の残酷な行動がどう残ったかどうか……。

この物語が私たちに伝えるのは卑怯な行動は身を滅ぼす、ということでしょうか。
結局、愛する夫も家も子供も失ってしまった、小町の母親。
小町が美貌の歌人として一世を風靡し、貴公子たちに求婚されまくる恋の日々を送りながらも、歳月とともにその栄光も美貌も消え、孤独な晩年を送ったという結末に通じるものを感じます。

小倉百人一首の有名な歌のように、過去を憂いて人生を終わるのはいやですね。
「今を生きましょう、今、恵まれていること、もの、人に感謝して!」と自分に問う、ハギをめぐる女性の物語です。

花の色は うつりにけりな いたづらに
わが身世にふる ながめせしまに

〔訳〕
「桜の花の色があせてしまったように、私の美貌もすっかり衰えてしまったわ。長雨を眺めながら、恋や世間のいろいろ、もの思いにふけって月日を過ごすうちに。あ~あ」

<9月に生まれた人へのメッセージ>
あなたは美しく、清楚な魅力を秘めた人です。
控えめな印象とは裏腹に、クリエイティブな才能に優れ、独自の世界を花咲かせる人もいるでしょう。
恋愛は一人の相手と深く長く絆を築くより、短くても情熱的な関係に惹かれます。
遊び心はほどほどに。仕事も人間関係も「継続は力なり」でいきましょう。
何事も真摯に向き合うことが将来の大きな成功につながります。

●この花のミューズ(女神):小野小町(生没年不詳)
平安時代前期の女流歌人。絶世の美女で才色兼備、日本の「美人」の代名詞である。紀貫之とともに三十六歌仙の1人。仁明、文徳の両天皇の後宮として仕えた。美しい女性でありながら、冷酷高慢な性格とも伝わる。晩年にはおちぶれて、尼または乞食となって旅をしながら暮らし、路傍に死んだという。日本全国に小野小町の終焉の地とされる場所がある。

○杉原先生の著作
『神話と伝説にみる 花のシンボル事典』 説話社刊
定価:3,024円(税込)A5判・並製・284頁 ISBN:9784906828357
http://www.setsuwa.co.jp/publishingDetail.php?pKey=177
http://setsuwasha.com/bookDetail.php?bKey=177


○杉原先生の携帯サイト(フィーチャーフォン)
ケルトの森 木精占術
http://celticforest.jp/


○杉原先生がラジオ出演
月に1度、『花のシンボル事典』から季節の花を紹介しています。
毎月・第3火曜日の19時25分から。
番組名:エフエムふくやま・本の情報番組「ブック・アンソロジー」<もっと素敵にマイライフ>のコーナーにて。
※日本全国どこからでもWEBでお聴きになれます。
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第14回「ひまわり」放送中
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